こわれた腕環
アーシュラ・K・ル=グウィンのファンタジー小説。ゲド戦記シリーズ / ウィキペディア フリーな encyclopedia
『こわれた腕環』(こわれたうでわ、原題: The Tombs of Atuan)は、アメリカの作家アーシュラ・K・ル=グウィン(1929年 - 2018年)が1971年に発表したファンタジー小説。『影との戦い』(1968年)に続く『ゲド戦記』シリーズの第二作である。なお、シリーズ名『ゲド戦記』の表記は日本語版独自の呼び名であり、英語版では "Books of Earthsea"、"Earthsea Cycles" などと呼ばれる[2]。
こわれた腕環 The Tombs of Atuan | |
---|---|
作者 | アーシュラ・K・ル=グウィン |
国 | アメリカ合衆国 |
言語 | 英語 |
ジャンル | ファンタジー、教養小説 |
シリーズ | ゲド戦記 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
初出情報 | |
初出 | 1970年、ワールド・オブ・ファンタジー(英語版)誌(短縮版) |
刊本情報 | |
刊行 | 1971年 |
出版元 | アテネウム・ブックス(英語版)[1] |
受賞 | |
ニューベリー賞名誉賞(佳作) | |
シリーズ情報 | |
前作 | 影との戦い(1968年) |
次作 | さいはての島へ(1972年) |
日本語訳 | |
訳者 | 清水真砂子 |
ウィキポータル 文学 ポータル 書物 | |
テンプレートを表示 |
架空の世界アースシーを舞台にした『こわれた腕環』は、カルカド帝国に生まれた少女テナーの物語である。大巫女の生まれ変わりとされた彼女は、まだ幼いころに家族から引き離されてアチュアンの墓所で「名なき者たち」に仕え、孤独な生活を送る。ところが前作『影との戦い』の主人公ゲドの登場によって彼女の世界は一変する。ゲドは、伝説の護符の分かれた半分を取り戻すために墓所に潜入し、テナーは彼を墓所の地下迷宮に閉じ込める。しかし、受けた教えに従わずゲドを生かしておいたことで、テナーは彼を通じて外の世界を知り、名なき者たちへの信仰と自分の役割に疑問を抱き始める。『影との戦い』と同様に、『こわれた腕環』もテナーの成長とアイデンティティーを探求する教養小説である。
本作では、カルガド人の文化についての人類学的観点を示しつつ、神権政治の下で家父長制社会に奉仕する巫女崇拝という文脈において、教義と信仰、ジェンダーと権力のテーマも扱っている。また、英雄的な探求の物語という叙事詩的要素を『ゲド戦記』シリーズの他の作品と共有しているが、女性の主人公と浅黒い肌の主要キャラクターを登場させ、当時のファンタジー分野の作品に見られる常套的な要素のいくつかを覆している[3]。
『こわれた腕環』は、単行本に先駆けて短縮版が『ワールド・オブ・ファンタジー(英語版)』誌1970年冬号に掲載され、単行本は1971年にアテネウム・ブック(英語版)社から出版された。作品は好評を博し、1972年のニューベリー賞名誉賞を受賞した[4]。
物語は、テナーのキャラクターやル=グウィンの文章、そしてカルカド人とアースシーの他の地域の人々との文化的な違いを「繊細に」描いていると論評されている。宗教的テーマと倫理的問題の探究については称賛を受けたが、ジェンダーの扱いに関しては、女性の主人公を創り出したものの、男性優位の枠組みの中にあるという批判もあった。とはいえ、この小説は「美しく書かれており」[5] 、「有意義な女らしさの探究」であると評されている[6]。
(以下、シリーズ全体の背景、翻案については、『影との戦い』も参照のこと。)