ペッカム型擬態
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ペッカム型擬態[2][3][4][5](ペッカムがたぎたい、英: Peckhamian mimicry)、または攻撃型擬態[2](こうげきがたぎたい、英: Aggressive mimicry、攻撃擬態[4]、攻撃的擬態[5]とも)は、捕食者、寄生者、捕食寄生者などが無害な対象に自らの姿を似せ、獲物や宿主に自らの正体を見破られないようにする擬態の一様式である。この擬態様式はしばしば「ヒツジの皮をかぶったオオカミ(wolf in sheep's clothing)」に例えられる[6][7][8]。最も広い定義を採用すればペッカム型擬態はあらゆる類の搾取について成り立ちうる擬態様式で、例えばある種のランがその花をメスの昆虫に似せることでオスの昆虫を誘引し授粉を達成する擬似交接(英語版)と呼ばれる現象もこれに含むことがある[9]。ペッカム型擬態という名称はハエトリグモの研究で知られるジョージ・ウィリアム・ペッカムとエリザベス・マリア・ギフォード・ペッカムのペッカム夫妻(英語版)に因んだものである[10][11][12][13]。
ペッカム型擬態は、ミューラー型擬態やベイツ型擬態といった防御的擬態とは性質が異なる。防御的擬態は一般的に自身が有害であると示すことによって擬態者が利益を得る擬態様式だからである。一方ペッカム型擬態では擬態者は、獲物自体や、獲物にとって有益である、または少なくとも無害である他の生物に自分の姿を似せる。なお、ペッカム型擬態によって発せられるシグナルはシグナルの受容者を騙すためのものであり、その点では同様にシグナル受容者を騙す擬態であるベイツ型擬態と共通している。
ペッカム型擬態ではしばしば捕食者が獲物を自分に向けて誘引するようなシグナルが用いられる。これによって、捕食者(擬態者)は単純に獲物がこちらに来るのを待ち伏せしていれば良いことになる。獲物を誘引するためのシグナルとしては、食事、あるいは生殖に関わるものが最も一般的に用いられるが、その他の方法を使うこともあり得る。捕食者の素性が見破られないように獲物に近づくことができれば、その詳細な方法は問わないのである。
視覚的な観点から言えば、ペッカム型擬態と隠蔽擬態(カモフラージュ)との境界は必ずしも明確ではなく、攻撃のための隠蔽擬態を行なう種や、隠蔽擬態的な戦略と獲物を誘引する戦略を併用するペッカム型擬態者もいる。例えばアンコウやワニガメでは、体の一部で捕食者を騙すようなシグナルを出しておきながら他の部分は捕食者に気づかれないように隠しておくという戦略が見られる。