再生核ヒルベルト空間
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関数解析学(数学の一分野)において、再生核ヒルベルト空間(RKHS)(さいせいかくヒルベルトくうかん、英: reproducing kernel hilbert space)は、点評価が連続線形汎函数であるような関数から成るヒルベルト空間である。点評価が連続線形であるとは、大雑把に言えば、RKHSに属する関数とがノルムとして近い(が小さい)とき、とは各点でも近い(が任意ので小さい)ということである。逆は必ずしも成り立つ必要は無い。例えば、ノルムを一様ノルムとしたとき関数列 は各点収束するが一様収束しない。(ただし、一様ノルムは極化恒等式を満たさないためにいかなる内積からも誘導されないから、これは反例ではない。)
関数のヒルベルト空間であってRKHSでないものを作るのは簡単ではない。[1]しかし、いくつかの例は見つかっている。[2][3]
L2 空間は関数のヒルベルト空間ではない(したがってRKHSではない)が、関数の同値類のヒルベルト空間ではある(例えば、とで定義されたとはL2では同値である)。一方、 L2ノルムがノルムであるようなRKHSは存在する。例として、帯域制限関数の空間がある(詳細は後)。
RKHSは、その中の任意の関数を再生するような核と関係している。関数を「再生する」とは、関数の定義域内の任意のに対して、その関数の「での評価」が、核から生成される関数との内積をとることで可能である、ということである。そのような再生核は、評価関数が全て連続である時かつその時に限って存在する。
再生核が最初に提唱されたのは調和関数や重調和方程式の境界値問題に関するStanislaw Zarembaの1907年の研究である。同時期に、James Mercerは積分方程式の理論における再生性を満たすような関数を研究した。その後再生核のアイデアは20年近く放置されたが、セゲー・ガーボル、ステファン・ベルグマン(英語版)、サロモン・ボホナーによる論文で再び触れられるようになった。その後1950年代前半にナフマン・アロンシャインとステファン・ベルグマンがこのテーマを体系的に発展させた。[4]
再生核ヒルベルト空間には、複素解析や調和解析、量子力学など様々な応用がある。その中でも特に、RKHS内で経験損失を最小化するような関数は訓練データで評価された核関数の線形結合で書けるというリプレゼンター定理(英語版)のおかげで、統計的学習理論(英語版)の分野で再生核ヒルベルト空間が重要である。これは、経験損失最小化問題を無限次元の最適化問題から有限次元最適化問題へ簡単かできるために、実用上有用な結果である。
簡単のため、ここでは実数値ヒルベルト空間の概要を説明する。この理論は簡単に複素数値関数に拡張することができ、したがって解析関数空間であるような再生核ヒルベルト空間の重要な例を多く含んでいる。[5]